猫との暮らしは楽しいですが、その反面危険もあります。知っておきたいリスクの一つが「ペット感染症」です。今回は「ペット感染症」とはどういった感染症なのかについて、ご紹介します。
ペット感染症とは?
本来は猫とは寝室を分けるのがベスト
実は、本来医学的な面からいうと、人間と猫とは寝るときは一緒にいない方がいいとされています。理由は「ペット感染症」のリスクがあるからです。そのため本来は、猫とは寝室を分けるのがベストとされています。とはいえ、愛猫と一緒に眠ったり、目覚めたときそばに寄り添ってくれることは、猫を飼う上で喜びの一つですよね。そこで、「ペット感染症」のことを知った上で、猫と生活することが、飼い主には求められます。
ペットから人にうつる病気
感染症には、人にも動物にも感染する病気として「人畜共通感染症(人獣共通感染症)」と呼ばれる種類があります。人畜共通感染症の中でも、ペットから人へ感染する可能性のある感染症を「ペット感染症」と言います。ペット感染症は、現在25種類ほど存在し、そのうち猫から人へと感染する可能性がある病気は7種類とされています。
動物ごとに感染する病気、しない病気が分かれるため、全部の病原体が、全ての動物に感染するわけではありません。例えばインフルエンザの病原体はウイルスですが、人やブタ、鳥は感染しても、猫や犬は感染しないというケースがあります。
感染源はさまざま
ペット感染症はいくつかの病原体によって、感染します。例えば次のような感染源が考えられます。
- 細菌
- ウイルス
- 原虫(真核単細胞の微生物)
- リケッチア(ダニなどを媒介として繁殖する微生物)
それぞれの微生物が、体内へと侵入することで感染し、発症します。
重症化するリスクは低い
猫から人へのペット感染症の場合、危篤になるようなケースになることはほとんどありません。ただし、小さい子どもや、高齢者などの、抵抗力が落ちている人や、糖尿病や肝臓に疾患を抱えている人の場合、重症化することがあるので、油断できません。
猫から人へのペット感染症の種類と症状
猫は「無症状」というケースもある
先にも書いた通り、猫から人へ感染する可能性がある病気は7種類あります。中には猫自身は感染しても無症状という場合もあります。そこで、感染症の種類と、猫と人、それぞれに起こる症状についてまとめました。
猫から人へのペット感染症の種類
まずはどんな種類の病気があるのがご紹介します。
病名 | 病原体 | 感染経路 |
猫ひっかき病 | 細菌 | 猫にひっかかれたり、かまれたりしたときの傷から感染する。他にも、ノミによる刺し傷が原因となる場合もある。 |
パスツレラ症 | 細菌 | 元々多くの哺乳類が持っている常在菌で、猫は口腔内に保有している確率が100%、爪にも20~25%保有していると言われている。そのため、猫とのキスによる直接感染や、ツバなどによる飛沫感染、あるいはかみ傷やひっかき傷によって感染することがある。 |
真菌症 | 真菌(カビまたは糸状菌) | 真菌に感染した猫などの動物を抱いたりなでたりすることで直接感染するケース、あるいは直接感染した人が、さらに人から人へと関節感染するケースがある。 |
イヌ・ネコ回虫症 | 寄生虫(線虫) | 寄生虫(線虫)に感染している猫の便を処理する際に、排せつ物に混ざっていた虫卵が手指につくか、猫をなでたときに虫卵が手につき、それを偶然摂取してしまうことで、経口感染する。 |
トキソプラズマ症 | 寄生虫(原虫) | トキソプラズマ症に感染した猫の便に排せつされたオーシスト(卵のようなもの)を偶然摂取してしまうことで経口感染する。あるいは感染した豚肉を摂取した場合に経口感染することもある。 |
疥癬(かいせん) | ヒゼンダニ | 感染した状態の猫や、他の動物を、抱いたりなでたりすることで直接感染する。あるいは、ベッドなどの寝具を通した間接接触により、感染することもある。 |
Q熱 | リケッチア | 感染した猫や他の動物から排せつされた尿、便、胎盤、羊水、乳汁などを通して、病原体が空気中に舞い上がり、吸引することで感染する。元々多くの哺乳類が病原体を持っているとされる。 |
人間が感染した場合の症状
次に、猫から人へと感染した場合、どういった症状が出るのかを知っておきましょう。
病名 | 症状 |
猫ひっかき病 | かまれたり、ひっかかれたりしたあと、数日から2週間くらい経ってから、傷口が赤紫色に腫れ、時には化膿して膿が出る場合もある。他にも、リンパ節が腫れたり、発熱、頭痛、咽頭痛、倦怠感などを伴うことが多い。治療をすれば回復することがほとんどだが、まれに脳症や髄膜炎などの合併症を引き起こすことがある。 |
パスツレラ症 | 発症者の60%が呼吸器感染症と言われている。さらに、体の抵抗力が落ちたときだけ症状がでる「日和見感染」となるケースが多く、症状も軽い風邪程度で済む場合もあれば、肺炎など重症化するケースまでさまざま。特に、糖尿病や肝臓疾患(アルコール性肝障害など)の持病を持つ人、中高年層の人がかかると、重症化するリスクがある。 |
真菌症 | 「ぜにたむし」とも呼ばれる、顔や首、体などにかゆみを伴った発疹ができる。頭部に感染した場合は、「しらくも」と呼ばれる、円形や楕円形をした紅斑、または脱毛が生じることもある。「しらくも」の場合は、かゆみがない場合と、かゆみや疼痛を伴うケースとに分かれる。比較的感染者は子どもに多くみられる。 |
イヌ・ネコ回虫症 | 基本的に人に感染しても成虫になれず、幼虫のまま体内を移行することがほとんど。ただし、網膜や肝臓に移行した場合は、障害を与えることがある。 |
トキソプラズマ症 | 人が感染してもほとんどが無症状だが、妊婦の場合は、母体内で胎児が感染すると「先天性トキソプラズマ症」として、胎児に障害が出る場合や、早産、流産の危険性があるが、胎児が感染した場合も治療は可能。ただし妊娠初期に初感染した場合にのみ起こる症状なので、過去にすでに感染したことがある場合は、影響がないとされる。感染したことがあるかどうかは、抗体検査で調べることができる。 |
疥癬(疥癬) | 手や腕、お腹などに、強いかゆみを伴う赤い斑点ができる。夜間、特にかゆみがひどくなる傾向がある。さらに、手のひらや指の間に、「疥癬トンネル」と呼ばれる灰白色、あるいは淡黒色の線状の発疹ができることもある。 |
Q熱 | 感染した人の50%ほどは、一過性の発熱や、軽度の呼吸器症状が出る程度で回復することが多い。急性型のQ熱であれば、感染後10~30日で突然発熱、頭痛などのインフルエンザに似た症状が出て、2週間ほどで回復することが多いとされる。ただし、症状が進行すると、肝炎や髄膜炎、気管支炎などを引き起こすこともある。 |
猫が感染した場合の症状
人間が感染した場合は、風邪に似た症状や、痛み、かゆみなどを引き起こすことが多いですが、猫の場合は症状が出ないこともあります。
病名 | 症状 |
猫ひっかき病 | 保菌している場合でも無症状であることがほとんど。 |
パスツレラ症 | 一般的には感染していても無症状であることが多い。ただし、猫によってはまれに肺炎を引き起こすことがある。 |
真菌症 | 頭や首、足などに円形状に脱毛が見られ、しだいに広がる。 |
イヌ・ネコ回虫症 | 下痢や腹痛、消化不良を起こしやすい。 |
トキソプラズマ症 | ほとんどの猫が無症状。ただしまれに発熱や呼吸困難を伴い、間質性肺炎や肺炎を引き起こすことがある。 |
疥癬(かいせん) | 激しいかゆみを伴い、耳の縁やヒジ、かかと、腹などにかさぶたができ、脱毛する。 |
Q熱 | 一般的には、軽い発熱で落ち着くことが多い。ただし、猫が妊娠中の場合は、流産や死産となることもある。 |
体調不良を感じたらペット感染症も疑おう
早めに病院で診察を受けよう
ペット感染症の症状によっては、風邪やインフルエンザに似た症状を伴うこともあり、判断が難しい場合もあります。ですが、猫と生活している限り、何か体調不良を感じたら、ペット感染症かもしれない、と疑うことが大切です。病気によっては、猫は無症状というケースもあり、気付きにくいこともあるからです。
リスクを知っていれば早く気付ける
少しでも体調不良を感じた時は、悪化する前に病院へ行き、診察を受けましょう。そして医師に、猫を飼っていることを伝えてください。それによって、ペット感染症と早く分かり、適切な処置が受けられる可能性も高くなります。
予防できることはする
ペット感染症に関する正しい知識を持つことにより、予防できるものもあります。例えば、イヌ・ネコ回虫症やトキソプラズマ症は、猫の便から感染するケースが多いので、トイレの掃除をしたあとの手洗いを徹底することで、ある程度予防できます。また、パスツレラ症の場合、猫と安易にキスをしないでいることも予防につながると考えられます。
具合が悪いときは一緒に寝ない
体調不良を感じたときは、猫と一緒に寝るのをしばらくストップすることも大事です。もし、ペット感染症が原因だとしたら、しばらく距離を置くことで、症状の改善にもつながります。
ペット感染症のリスクを知っておけば猫との生活をより楽しめる
知識があれば、予防や症状の悪化を防ぐことにもつながる
猫との暮らしは楽しいですが、ペット感染症というリスクがあることも知っておかなければなりません。猫から人へと感染する病気は、今のところ7種類あり、病気によっては猫は無症状というケースもあります。人間が感染した場合、命に危険が及ぶ可能性は低いですが、まれに重症化することもあるので油断できません。
ですが、ペット感染症の知識があれば、体調不良を感じたとき、猫を飼っていることを医師に相談することで、病気の早期発見することができます。結果的に症状の悪化防止、早期回復にもつながります。さらに、リスクがあることを知っていれば、ある程度の予防もできます。リスクがあるということを、知った上で対策をとれば、より猫との暮らしを、確かなものにするきっかけにもなるのではないでしょうか。
猫から人へ感染する「ペット感染症」の種類や症状は?予防や対策は?
- 「ペット感染症」は、ペットから人へと感染するリスクのある病気のこと。病原体は細菌、ウイルス、原虫、リケッチアなどさまざま。
- 25種類あるペット感染症のうち、猫から人へ感染する可能性があるのは、猫ひっかき病、パスツレラ症、真菌症、イヌ・ネコ回虫症、トキソプラズマ症、疥癬、Q熱の7種類。
- 猫から人への感染症は、ほとんどが治療で回復するが、抵抗力が弱っている人や持病がある人の場合、重症化するケースもあるので油断できない。場合によっては猫は感染していても無症状というケースもある。
- 猫と暮らしていて、少しでも体調不良を感じたら早めに病院へ行き、診察を受けるのが得策。その際、猫を飼っていることを伝えると、感染の早期発見につながる可能性が高い。
- ペット感染症のリスクがある、と知っていることで予防できることもある。それがさらに、猫との暮らしを確かなものにするきっかけづくりになる。