犬を飼うことでやらなくてはならないことはいくつかありますが、ワクチンや予防接種もその一つです。最近ワクチンの接種について、副作用の心配などをされる方も多いですが、犬のためには定期的なワクチンが必要です。また、人にとっても、毎年狂犬病予防を受けさせることは大切です。その理由についてまとめてみました。
ワクチンをする理由とは
犬の免疫を守るため
まずは、どうしてワクチンを受けなければならないか、その意味について調べてみました。
ワクチンは免疫を持つためのもの
人間も、小さなころからワクチン接種を何度も受けます。大人になってからも、インフルエンザのワクチンなどは、受ける方も多いですよね。ワクチンは、その病気の元となる病原体を弱くしたものや、病原体を砕いて破片にしたものなどを、注射によって体内に注入することです。
そのようにして体内に病原体を取り込むことにより、体は「抗体」と呼ばれる免疫を作ります。そうして抗体を作っておけば、いざ本物の病原体が体内に侵入したときに、体が素早く攻撃することができ、重症化を防ぐことができます。
犬は生まれて2か月で抗体がなくなる
ワクチンを犬が受けなければならない理由は、生まれて2か月くらいで抗体がなくなるためです。元々生まれてすぐは抗体がないのですが、2カ月ほどは母犬の初乳からもらった抗体で免疫力をつけています。この母犬の初乳による抗体の受け渡しを、「移行抗体」と呼ばれます。そして移行抗体の持続力は2か月ほどなので、その後は子犬が自分で抗体を作らねばなりません。
とはいえ、自分で抗体を作るのは難しいことです。そのため自然界においては、ここで死んでしまう子犬もいます。ワクチンはそれを防ぐために打ちます。つまり、子犬が元気で大きくなれるよう、免疫力をつけられるようにすることが、ワクチンを打つ理由なのです。
ワクチン接種のタイミング
犬のワクチンは通常3回に分けて行われます。一度目は、先ほどもお話ししたとおり免疫が切れる生後2か月目(8週)くらいです。そして、それからさらに1か月ほど時間を空け、2回目と3回目のワクチンを打ちます。2回目は生後12週、3回目は16週目くらいを目安に打つのが一般的です。こうして重ねてワクチンを打つことで、免疫力を強める効果(ブースター効果)が期待できます。
ただし1回目のワクチンを打つタイミングは、わけあって初乳を飲めていない子犬(母親が面倒を見なかったり、捨てられたりした場合)には、もっと早く打つこともあります。
ワクチンを打つ周期や種類は?
毎年打つもの方がいいか、そうでないか
3回のワクチンを終えたあとも、1年に1回ワクチンを打つのが一般的です。ですが、最近はワクチンの副作用が心配、という人も多くいます。実際、犬によってはワクチンによって体調を崩したり、命の危険が訪れたケースもあるようです。それなら毎年打たない方がいいのかなと思いますよね。どうやら、ワクチンを打つ適切な時期を調べる方法があるようです。
「抗体価の測定」次第では3年に1度でもOK
ワクチンの効き目がどのくらい持つかということは、犬によって個体差があります。それを調べる方法が「抗体価の測定」という、効き目がどの程度残っているかを調べる検査です。この検査を受けて、十分な効き目が残っているようであれば、犬によっては毎年でなく、3年に1度くらいのペースでも構いません。
ワクチンによる体調不良が心配、という人は、この検査でおおよそどのくらい効き目が残っているか調べられれば、副作用を防ぐことができます。ただ検査をせずに、接種の期間を延ばしたり、ワクチンを受けずに過ごして免疫力がなくなっているのを防ぐのにも有効な手段ではないでしょうか。
検査のデメリットは手間と費用
抗体価の測定をすることで、犬への負担は減らせる反面、その手間がデメリットと言えます。なるべく信頼できる結果を得たり、ワクチンが切れそうなときはすぐに再接種ができるよう、測定は数カ月に1度のペースで行うことが望ましいといわれています。もちろんその都度、費用もかかります。
また、ペットホテルなどを利用する場合は、ワクチンを接種したという証明書が必要な場合もあります。証明書がなければ、受け入れを拒否されることもあるので、ペースを遅らせることにはメリットとデメリット両方があるといえます。
ワクチンを何種類受けるかは相談しよう
ワクチンを受けるときは、一種類ではなく何種類かの混合になります。例えば次のようなワクチンがあります。
- ジステンパーウイルスワクチン
- アデノウイルスワクチン(Ⅰ型/Ⅱ型)
- パルボウイルスワクチン
- パラインフルエンザワクチン
- コロナウイルスワクチン
- レプトスピラ病ワクチン
このうちアデノウイルスワクチンはⅠ型とⅡ型でそれぞれワクチンの種類が異なります。また、レプトスピラ病ワクチンも、3通りにわかれます。さらに、同じワクチンでも、いくつかの製品が存在し、どれを接種するかや、一度に何種類接種するかは、獣医によってまちまちです。
一度にたくさん接種すればいいというものでもない?
一度に接種する数が多い方が、防げる病気の数も増えます。そのため、最近は、7~9種類ほど混合のワクチンを接種することが一般的です。ただし、一概に多い方が安心というわけでもありません。というのは、その分ワクチンによる副作用の確率も高くなるケースがあり、費用も数によって上がるからです。
どのワクチンを接種した方がいいかは、住んでいる地域で必要なものが異なることもあります。そのため、何種類混合でワクチンを接種するかは、かかりつけの獣医に相談して決めるのがおすすめです。
狂犬病ワクチンは毎年受けよう
感染すると100%死に至る恐ろしい病気
ワクチンの予防接種は、犬によっては毎年受けなくてもいいケースがありますが、狂犬病は別です。こちらは、犬のためにも人のためにも、毎年受けるようにしましょう。
狂犬病とは
狂犬病は、「狂犬病ウイルス」が原因の感染症です。犬だけでなく、全ての哺乳類が感染する可能性があるため、「人畜共通感染症(ズーノーシス)」、あるいは「人獣共通感染症」と言われます。
狂犬病は、一度発症すると死亡率100%という恐ろしい病気です。犬以外にも、猫やコウモリなどの野生で生きている動物が、ウイルスを持っていて感染源になることもあります。人から人への感染は今のところ認められていませんが、感染した動物から咬まれたり、傷口や目などの粘膜を舐められた場合に感染しやすいといわれています。
人が狂犬病に感染した場合の症状
もし人が狂犬病にかかっている犬に咬まれて感染した場合、最初は風邪のような症状ですが、傷は治っても痒みや違和感、熱などを感じます。進行すると、極端に水や風を怖く感じ(恐水症、恐風症)、不安感が強くなるなど神経系の機能に異常が起こります。その後、脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡状態になり死に至ります。
今も世界中で亡くなる人が多い
狂犬病は、日本では1957年に猫が発症したのを確認してから、根絶されたと言われている病気です。そのため、もう予防接種は必要ないのではないかと思われる方もいます。ですが、世界的に見ると、アジアやアフリカを中心に、今も年間55,000人ほどが発症し、亡くなっています。決して過去の病気ではありません。
自分だけでなく周りの人も守ることに繋がる
狂犬病の予防接種を毎年受けることは、犬や自分たち家族だけでなく、周りの人も守ることにつながります。海外旅行が一般的になった現代では、旅行先でウイルスを持ち帰る可能性もあります。そうすれば、日本でいつ再流行するかもわかりません。特に、野生動物が多い地域で広まれば、そのまま国内に拡散する可能性もあります。予防接種はそれを防ぐためのものなのです。
狂犬病は毎年、ワクチンは検査と相談を
予防接種は犬だけでなく人の健康のためにも必要なこと
犬のワクチン接種は、病気のリスクを減らすためにも必要なことです。ただ、犬によっては副作用で体調を壊すケースもあります。そのため、3回目のワクチンが終わったあとは、犬によっては数年おきのワクチン接種でもいい場合があります。ただし、狂犬病の予防接種だけは、毎年受けましょう。狂犬病は、犬だけでなく人や他の動物にとっても危険な病気だからです。
また、ワクチンの場合、接種のペースをどうするかは、抗体価の測定を行って決めましょう。自己判断で接種を受けさせないでいると、ワクチンの効き目が切れているのに気づけないことが多いからです。数カ月おきに測定しなければならず、費用はかかりますが、副作用を気にされる方にとっては有効な手段になるはずです。
副作用を減らす方法として、一度に受けるワクチンの種類を限定するというやり方もあります。混合ワクチンの種類を増やすとその分副作用のリスクも高まるからです。どのワクチンの接種をしておいた方がいいかは、かかりつけの獣医に相談しましょう。
犬にワクチンが必要な理由と副作用対策でできること
- 生後2か月ほどで母犬からもらった抗体が切れるため、免疫力をつけるためにワクチンは必要。
- ワクチンの副作用が心配な場合は、毎年定期的にではなく、抗体価の測定を定期的に行い、効き目が切れそうになったとき接種するという方法をとることもできる。
- 犬によっては効果の持続力が弱く、毎年ワクチン接種が必要な場合もある。
- 一度に接種するワクチンの種類を調整することによっても、副作用のリスクを減らせる可能性がある。かかりつけの獣医に相談しよう。
- 狂犬病は犬だけでなく、人や他の動物を守るためにも、予防接種を受けることは大切。